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日本語における「謝罪表現」 ―ベトナム語との対照-= HÀNH ĐỘNG XIN lỗi TRONG TIẾNG NHẬT - đối CHIẾU với TIẾNG VIỆT-

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ハノイ国家大学
外国語大学
日本言語文化学部

卒業論文

日本語における「謝罪表現」
―ベトナム語との対照-

氏名:NGUYEN THI THU TRA
学生番号:16041707
所属クラス:17J2
指導教員:PGS.TS Do Hoang Ngan

ハノイ‐2021


ĐẠI HỌC QUỐC GIA HÀ NỘI
TRƯỜNG ĐẠI HỌC NGOẠI NGỮ
KHOA NGƠN NGỮ VÀ VĂN HĨA NHẬT BẢN

KHĨA LUẬN TỐT NGHIỆP

HÀNH ĐỘNG XIN LỖI TRONG TIẾNG NHẬT
-ĐỐI CHIẾU VỚI TIẾNG VIỆT-

Họ và tên: NGUYỄN THỊ THU TRÀ
Mã số sinh viên: 16041707
Lớp: 17J2
Giảng viên hướng dẫn: PGS.TS Đỗ Hoàng Ngân


Hà Nội, 2021


謝辞
本研究は、ハノイ国家大学・外国語大学・日本言語文化学部にて行われたもの
です。本研究を進めるに当たり、多くの方々からご協力及びご支援を頂きました。
ここに深く感謝の意を表します。
まず、日本言語文化学部の Đỗ Hoàng Ngân 先生は、本研究に対していつもお世話に
なっており、テーマ、構成の大枠から様々ご指導いただきました。先生のご助言のおか
げで、本研究の完成度が高まりました。深く感謝致しますとともに、御礼申し上げます。
次に、本研究が完成できるように、両親にも心をこめて、感謝の気持ちを表し
たいと思います。本研究のみならず、学習過程にいつも応援し励まして頂きました。
グエン・ティ・トゥー・チャー

i


要旨
本論は日越両言語の謝罪表現の使用頻度、使用目的の類似点・相違点を明らかにす
るため、日本語原作の『ノルウェイの森』と『容疑者 X の献身』における『ごめん』
類『すまない』類、
『申し訳ない』類、
『失礼』類、
『悪い』という謝罪表現に対して
ベトナム語翻訳版『Rừng Na-uy』と『Phía sau nghi can X』における謝罪表現の翻訳
傾向を明示し、比較・対照を行う。研究方法として、謝罪言語行動、条件、両言語
の謝罪表現の特徴についての理論を論述した上で、文学作品の日本語原作とベトナ
ム語翻訳版の考察と対照から受け取る結果を分析する。研究の結果としては、まず
謝罪表現の使用頻度について、日本語原作版における謝罪表現の出現率は高く、各
類別には多様な言語形式が含まれるのに対し、ベトナム語翻訳版はほとんど「xin lỗi」

が含まれる表現に翻訳され、日本語より種類が少ない傾向があるという一つである。
次に、使用目的について、日本語原作版における謝罪表現は「罪」の有無にもかか
わらず、
《感謝》や《注意喚起》や《挨拶》様々な場面で使用される。しかし、ベト
ナム語翻訳版における謝罪は《感謝》、《注意喚起》、《挨拶》という目的を持ってい
ないという二つの結果である。また、謝罪の使用場面を通して、両言語の謝罪に影
響を与える話し手と聞き手の人間関係も最初の一歩分かるようになった。日本語の
謝罪は、親疎関係・上下関係が重要な要素であるが、ベトナムの方は、親疎関係・
年齢に密接な関係がある。

ii


目次
1.研究の背景......................................................................................................

1

2.先行研究.........................................................................................................

2

3.研究の目的......................................................................................................

4

4.研究の対象・範囲...........................................................................................

4


4.1 研究の対象...............................................................................................

4

4.2 研究の範囲...............................................................................................

5

5.研究方法.........................................................................................................

5

6.研究構成.........................................................................................................

6

第 1 章:日本語及びベトナム語の謝罪言語行動についての理論
1.1 謝罪言語行動とは何か.................................................................................

7

1.1.1

言語行動の定義 ................................................................................

7

1.1.2

謝罪の定義 .......................................................................................


8

1.1.3

謝罪の適切性条件 ............................................................................

11

1.2 ポライトネス理論 ....................................................................................

13

1.2.1

Brown & Levinson (1987)のポライトネス理論 ............................

13

1.2.2

謝罪言語行動におけるポライトネス ...............................................

14

iii


第 2 章:日本語とベトナム語の謝罪言語行動の概念
2.1 日本語の謝罪言語行動 ...............................................................................


15

2.1.1

謝罪の機能・目的について ..............................................................

15

2.1.2

謝罪が行われる状況について ..........................................................

17

2.1.3

謝罪表現の機能の分類 .....................................................................

21

2.2 ベトナム語における謝罪言語行動 .............................................................

23

第 3 章:日本語謝罪表現とベトナム語謝罪表現の対照研究
3.1 研究データ .................................................................................................

25


3.1.1

データ収集法 ...................................................................................

25

3.1.2

データ資料の説明 ............................................................................

26

3.2 研究結果と考察 ..........................................................................................

28

3.2.1

研究結果 ..........................................................................................

28

3.2.1.1 謝罪表現の使用頻度 ..................................................................

28

3.2.1.2 謝罪表現の使用目的 ..................................................................

30


3.2.2

考察 ..................................................................................................

43

3.2.2.1 両言語の謝罪表現の類似点 .......................................................

44

3.2.2.2 両言語の謝罪表現の相違点 .......................................................

44

3.3.3

研究の貢献 .......................................................................................

iv

45


3.3.3.1 外国語教育への貢献 ..................................................................

45

3.3.3.2 日越の翻訳・通訳への貢献 ........................................................ 45
結論
1.まとめ ...........................................................................................................


46

2.今後の課題 ....................................................................................................

47

図表リスト .........................................................................................................

48

参考文献 .............................................................................................................

49

v


1. 研究の背景:
外国語教育は世界中で重視されており、ベトナムも例外ではない。この数年、ベ
トナムでは日本語教育が急速に進んでいると見られている。国際交流基金の 2018 年
度日本語教育機関調査によると、ベトナム人学習者数は 174,521 人に達成し、東南ア
ジア地域で 3 位、世界で 7 位となったそうだ。これは 2015 年度調査に比べると、学
習者が 169.1%増加し日本語学習熱の高まりが顕著である。その状況で、日本語教育
ではコミュニケーション能力・異文化相互理解を育成することが目的の一つである。
また、実際の社会において円滑にコミュニケーションを図るためには、様々な表
現を身に付ける必要がある上に、それらの研究も不可欠であろう。その中で、謝罪
表現のに関する先行研究は多く見られ、この分野への関心や興味が高まっているそ
うだ。謝罪という言語行動は、
「話し手のあやまちや相手への被害等への責任を認め、

許しを乞い、それによって相手との人間関係における均衡を回復する行為」(熊谷
1993:4)で、どのような社会においても存在するものの、行われ方や文化によって相
違点もさまざまだ。日本語とベトナム語の場合は、日本語の代表的な謝罪表現であ
る「すみません」は「お詫び」の意味もあれば、「感謝」の意味もあるのに対して、
ベトナム語の唯一と意識される謝罪表現である「Xin lỗi」(シンロイー)は「感謝」
の気持ちが含まない。例えば、他の人の足をつい踏んでしまったとき、同じ「謝る」

1


気持ちを表す表現「すみません」と「Xin lỗi」は両言語とも使われる。しかし、お茶
を出されたときの感情の表現として「ありがとうございます」よりも「すみません」
の方が日本人はよく言うが、ベトナム人は「Xin lỗi」とは言わない。それで、日本語
における謝罪表現とベトナムにおける謝罪表現はどの点が同様であるのか、どの点
が相違するのか、という疑問が出てくる。
以上のようなことから日本語とベトナム語の謝罪行動についての様々な問題に
興味を持ち、さらに深く研究したいと思うようになっている。
2. 先行研究:
日本語に関する謝罪研究の中には、日本語母語話者の言語行動と、他の言語を母
語とする人々の言語行動を対照したものが多い(田中 1989、池田 1993、生越 1993、
山本 1995、大谷麻美 2002 等)

その中で、日本語と中国語の対照研究が多く見られる。彭国躍(1992)はさまざ
まな社会的要因によって、日中の謝罪行為がどのように遂行されるのかを意識調査
を通して考察した。この研究の結果としては、まず、中国語の場合は上下関係が謝
罪の遂行に影響を及ぼしているが、日本語の場合は上下関係より親疎関係が大きな
影響を与えていることが明確になったという。そして、謝罪の遂行と男女差につい
て調べたところ、その結果からは「中国も日本も問題にするほどの大きな差がある
とは認めがたい」と述べている。そして、
「同じ条件で、中国人は日本人と比べてよ


2


り自分のメンツが脅かされることを意識し、それを守る意向がある」が、
「日本人は
より他者との調和を重視し対人関係の修復に積極的である」とし、
「その背後にある、
上下、親疎関係のコンテクストが決まれば真っ先に謝ることを要求する日本社会と、
ある程度謝らないことを要因する中国社会との社会 的、文化的環境の差がみえる」
としている。
日本語と英語の対照研究について、大谷麻美(2002)は、話し手の心理や場面認
識の言語文化間での差に注目し、日本語と英語の謝罪慣用表現の特徴を分析してい
る。すなわち、同じ場面における、日本語と英語の謝罪慣用表現の使用差、心理的
反応や状況判断の差を指摘した上で、それがどのように影響するかを明らかにした。
「英語の謝罪慣用表現は話し手志向であるのに対し、日本語の謝罪慣用表現は聞き
手志向であるという点である。英語の場合、話し手の迷惑度や聞き手に対する気の
毒さが高くとも、話し手に責任や後悔がなければ謝罪慣用表現は出にくいといえる。
一方、日本語の場合、話し手に責任がなくとも、聞き手が迷惑を被れば謝罪慣用表
現が使用されやすいという結論であった。
一方、感謝の表現を視野に入れた研究としては、山本もと子(2003)は日本語母
語話者と日本語学習者を対象として、「 謝罪」と「感謝」という全く別の言語行動
の意味を持つ「すみません」の使用の調査を行い、分析している。結果としてその
差はほとんどなく、両方とも感謝の場合は「ありがとう」
、謝罪の場合は「すみませ

3


ん」を使用するとしている。同論では、

「感謝」と「謝罪」の両方の意味を持つ「す
みません」を証明するために、心理的距離、社会的距離、日本語教育、ドラマの台
本などの観点からどのようなシチュエーションで話されているかを分析するという
特徴があった。
3. 研究の目的:
今まで、ベトナム語と日本語の謝罪の言語行動を対照するに関わる深い調査や研
究はまだない。それで、本研究は、日本語原作の小説とベトナム語翻訳版の小説に
おける日本語とベトナム語の謝罪表現の対照研究を行いたいと思っている。本研究
は次の 3 つのことを目的としている。
・文学原作品を通して日本語の謝罪表現の使用頻度・使用場面を考察すること
・日本語原作版からベトナム語翻訳版を謝罪表現について対照すること
・日本語とベトナム語における謝罪表現の類似点・相違点を明らかにすること
その結果を日本語教育・異文化コミュニケーション教育の参考にする。
4. 研究の対象・範囲:
4.1 研究の対象:
研究対象は両言語の同じ小説に出現する謝罪表現である。本研究で扱う謝罪表現
は日本語の「定型表現」
、例えば「ごめんなさい」、
「すみません」、
「申し訳ない」な
ど及び、ベトナム語の唯一の謝罪言葉であると意識されている「xin lỗi」が含まれる

4


表現などである。謝罪表現には他にも「許して」などがあるが、本論文においてそ
れらが対象外とする。
また、研究対象としての謝罪表現に対して、小説における使用頻度・場面との関係
を中心とし、両言語の比較・対照を行う。謝罪のストラテジーは研究の対象外とする。
4.2 研究の範囲:

本論文は日本語原作の『ノルウェイの森』とベトナム語翻訳版の『Rừng Na-uy』
及び日本語原作の『容疑者 X の献身』とベトナム語翻訳版の『Phía sau nghi can X』
という 2 つの小説における日本語とベトナム語の謝罪表現に関する使用頻度・場面
との関係などである。
5.研究方法:
本稿では、考察方法、対照方法、統計方法といった研究方法が使用される。各方
法はどのように使用されるのか、以下のように詳しく説明していく。
・考察方法では、日本語とベトナム語の小説の中における謝罪表現を考察し、両
言語の謝罪における出現数、使用場面、目的、相手などを探し出す。
・対照方法では、両言語の謝罪表現を対照し、両言語の差異を調べる。
・統計方法では、日本語とベトナム語の小説の考察と対照のプロセスから得られ
たデータに基づいて、統計表と図を作成し、分析する。

5


6.研究構成:
本研究は序論・本論・結論の3つの部分から構成されている。
序論では、先行研究、研究目的、研究対象と範囲、研究方法について述べる。
本論は次の 3 章から構成されている。
・第 1 章:謝罪言語行動についての理論
本章では謝罪言語行動をめぐる基礎的な理論を述べる。
・第 2 章: 日本語とベトナム語における謝罪表現の概要
先行研究から論じた両言語の謝罪表現の特徴をまとめる。
・第 3 章: 日本語の謝罪表現とベトナム語の謝罪表現の研究
両言語の特徴、使用頻度・使用場面を明らかにするため、小説作品を資料として比
較・分析を行う。
最後に、結論にはまとめと今後の課題を述べる。

6



第1章
日本語及びベトナム語の謝罪言語行動についての理論
1.1 謝罪言語行動とは何か
1.1.1 言語行動の定義
・ネウストプニー(1988)は、言語行動がセンテンスを生成する過程を指すと
していた。ネウストプニーは狭い意味の言語行動を単純に言語表出行動のことであ
ると解釈していた。そして、そのセンテンスを道具として、ある目標で行動してい
る過程をコミュニケーションという。さらに、このコミュニケーション以外にある
社会文化行動と合わせて「インターアクション」になると主張した。この3つの関
係を以下の図に表している。

図 1:行動言語・コミュニケーション・インターアクションの関係
(ネウストプニー 1988:20)

7


この図について、ネウストプニー(1988)は次のような解釈をしている。
「言語行動は必ずコミュニケーション行動の一部であり、コミュニケーション
行動は必ずイ ンターアクションの一部である。ただし、情報の交換のためでないイ
ンターアクション(例えば、工場の作業過程、ゲームなど)もあれば、言語行動で
ないコミュニケーション(例えば、ジェスチャーなど)もある。前者を「実質行動」
(ネウストプニー 1982)あるいは 「社会文化行動」(ネウストプニー 1983)と名
付け、後者を「非言語行動」と呼びたい。つまり、①言語行動 ②コミュニケーショ
ン行動(言語行動+非言語行動)③インターアクション(コミュニケーション行動
+実質行動)がある。」
(ネウストプニー 1988:20)
このように、ネウストプニー(1988)では、言語行動の位置づけは非言語行動

と並列でコミュニケーション行動の一部をなしているのである。しかし、後の論文
(2005)においてネウストプニーは立場を変え、言語行動を大幅に広い意味でとら
えるようになる。その定義は以下のとおりである。
言語行動は「コミュニケーション」とほぼ同じ使い方ができる。つまり、行動一般
(二人以上が参加すると「インターアクション」になる)があり、それは非言語的
行動(社会文化行動)と言語行動(コミュニケーション)に分かれ、また、コミュ
ニケーションは文法外コミュニケーション行動(社会言語行動)と文法行動(狭い

8


意味の「言語」
)に分かれる。従来はそれぞれ、社会学/人類学、社会言語学/語用
論など、そして伝統的な「言語学」の対象になってきた。
(ネウストプニー 2005:2)
・一方、杉戸(1992)は言語行動の範囲をさらに広くとらえている。杉戸(1992)
は、
「言語行動」
(Linguistic Behavior)とは「単音・音節・形態素・語・文などの各
レベルで多くの要素が構造をもち、体系を作り上げているという意味での言語その
ものでなく、そうした言語によって人と人とが何らかのコミュニケーションをする
行動」と定義した。
これは基本的にはネウストプニー(2005)の言語行動=コミュニケーションと
同じの観点であるが、杉戸(1992)はさらに言語行動の研究は「声の大小・ 抑揚、
身振り、表情など言語に付随する副言語(パラ・ランゲージ)、あるいは言語からは
独立した非言語的(ノン・バーバル)な行動(服装、動作、空間的な位置など)に
まで範囲を広げる」ことがあると述べ、非言語行動も言語行動に含むとしている。
上記のことを踏まえ、本稿の謝罪言語行動は説明した言語行動の一つである。即
ち、
「人と人の間が、言語・非言語で謝罪を行う行動」とする。

1.1.2 謝罪の定義:
前節では謝罪言語行動の定義を行ったが、
「謝罪言語行動」の「謝罪」とは何か、
その定義について考える必要となってくる。

9


確かに、
「謝罪」を表す言葉はどの言語でも存在する。外国語を勉強し始めたとき、
「あいさつ」や「感謝」とともに「謝罪」を先に導入されたことが多いと見られて
いる。では、先行研究から謝罪の定義を説明してから、本稿での視点を述べたいと
思う。
「謝罪」についての研究は、世界中にも日本にも盛んでいる。以下のように謝罪の
定義をまとめる。
出店

定義

森山(1992) 「相手への損害を与えたことによる不均衡の修復であり、対人
関係の修復」
熊谷(1993) 「話し手のあやまちや相手への被害等への責任を認め、許し乞
い、それによって相手との人間関係における均衡を回復する行
為」
近藤(2002) 「不愉快な気分を相手に負わせる行為を犯してしまったため、
その行為の責任を認め、相手との関係を維持、又は再構築して
いくためにとる修復作業」
以上の定義はいずれも相手への損害や負担、その後の関係回復という点が共通
である。本論文はそれらを踏まえ、謝罪を「相手に何等かの損害や負担を与えてし
まい、それを認め、その後相手との人間関係を修復するための行為」と定義する。


10


1.1.3 謝罪の適切性条件
謝罪を発話行為の一つとしてとらえ、謝罪という行為の特質や適切性から定義
しようとするのが発話行為論である。発話行為論は Austin(1962)をはじめとする
言語哲学者が考えた発話を行為としてみなすという理論の枠組みである。
Austin のいう発話行為(Speech Act)は以下の三つに分けられている。
① 発語行為(locutionary acts)
:何らかの言語形式を発話することを指す
② 発語内行為(illocutionary acts):発話をすることによってなされる行為を指す
③ 発語媒介行為(perlocutionary acts)
:発話することによって聞き手が喜んだり、悲
しんだり、脅威を受けたり等々の効果をあげることを指す
Austin は謝罪を発話行為、特にその中の発語内行為の一つとしてとらえている。つ
まり、 例えば「お詫びします」など発話することによって、謝罪という行為が成立
することになるのである。
・その後、Searle(1969)は、Austin の理論を発展させ、発話行為を記述する
手段の一つとして、発語内行為を適切性条件(felicity conditions)によってとらえる
ことを提案した。適切性条件とは、発語内行為が適切に成立するための条件であり、
命題内容条件(問題 の発話の命題内容が満たすべき条件)、準備条件(発話の参与
者、場面ないしは状況設定に関する条件)
、誠実条件(発話者の意図に関する条件)

および本質条件(問題の行為遂行の義務に関する条件)から成る。

11



これに基づいて、山梨(1986)はある行為が謝罪という発話行為に認定されるため
の適切性条件を提示した。
Apologize (x, y, P)
(x:話し手、y:聞き手、P:その発話にに内包される命題内容)
① 命題:P は x による過去の行為。
② 準備:x は自分の行為が y にマイナスであることと信じている。
③ 誠実:x は自分の行為を悔いている。
④ 本質:x の自分の行為に対するその気持ちの表出。
(山梨 1986:49)
つまり、謝罪という行為はこれらの条件にかなったときに成立することになる。
・彭(2005:79)の山梨の条件を修正して、適切性条件を導入する。



命題条件:話者(及びその関係者)が行なった(又は行なおうとする)行為。
事前条件:話者(およびその関係者)の行為が相手に不利益を与えた(又は

与えようとする)



誠実条件:
a.話者は該当行為に対して責任を負うことを認める。
b.話者は命題行為について悔いを感じている。
c.話者は相手に許しを乞い、関係修復を望んでいる。

12


d.話者は該当行為の再発防止を約束する。



本質条件:話者は誠実条件で示された意向を表明する。

山梨(1986)に比べ、彭(2005)では謝罪の内容を過去の行為から未来の行為まで
広げ、また誠実条件で示された謝罪の心理(責任・後悔など)も詳しく取り込んで
いる。
本研究は彭(2005)の適切条件に同意し、本研究の謝罪の適切条件として扱いたい。
1.2 ポライトネス理論:
1.2.1 Brown & Levinson(1987)のポライトネス理論
Brown & Levinson(1987)の理論はポライトネスに関する最も基本的で、代表的な
理論であると言えるであろう。彼らの主張するポライトネスを簡潔に定義すると、
他者との円滑なコミュニ ケーション(あるいは人間関係)を遂行、維持するための
言語行動に関わる原理や方略(ストラテジー)であると言える。
Brown & Levinson(1987)のポライトネス理論は、Goffman(1972)の「フェイス
(Face)
」という概念を導入しながら、人間には「ポジティブ・フェイス(Positive face)

と「ネガティブ・フェイス(Nagative face)
」という2つの基本的な欲求があると想
定する。
・ポジティブ・フェイス(Positive face)とは他者に認められたい、好かれたいな
どの「プラス方向への欲求」である。

13


・ネガティブ・フェイス(Nagative face)とは他者に立ち入られたくない,必要以
上に関わってほしくないといったような「マイナス方向に関わる欲求」である。
ただし、ここでの「ネガティブ」というのは「否定的」という意味をもっていな

い。
『日本語・日本語教育を研究する―第 18 回』によると、これはただ欲求の方向
くらいに捉えておくのが妥当である。つまり、他者に「近づきたい欲求」が、ポジ
ティブ・フェイスで、他者と「距離を置きたい欲求、進入されたくない欲求」が、
ネガティブ・フェイスである。
1.2.2 謝罪言語行動におけるポライトネス
Brown & Levinson(1987)はポライトネスの観点から謝罪を定義した。彼らは、
謝罪とは話し手が犯したフェイスの侵害行為(face threatening acts、以下 FTAs)のせ
いで、聞き手の negative face を脅かしたことを残念に思う気持ちを伝え、その FTAs
をやわらげることであると主張した。そして、謝罪は、謝罪の話し手の positive face
を脅かす行為でありる一方、聞き手にとって negative face を脅かされる行為であると
定義した。

14


第2章
日本語とベトナム語の謝罪言語行動の概念
2.1 日本語の謝罪言語行動
2.1.1 謝罪の動機・目的について
本論文では謝罪に用いられる表現を扱うが、謝罪表現は常に謝罪や「お詫び」
そのものを表すとは限らない。
・熊取谷(1992)によれば、
「発話行為対照においては、発語内意図だけでなく、対
人交流上の目的や談話構成上の目的など、社会的相互作用を成立させる上に不可欠
な「目的」に焦点を当てる必要がある」という。
「詫び」の場合は、Goffman(1971)
は、 「詫び」を人間関係の不均衡を修復するためにとる儀礼的方略の一つとみてい
る。これは Goffman(1971)の「事実上の危害」や「修復作業」の概念が社会学の
相互作用論の観点から謝罪をとらえるときに使用されるものである。Goffman(1971)

は社会学の立場から謝罪を社会生活の中で何らかの違反行為(infraction)が生じた
ときに行う修復行為(remedial work)の一つとして規定している。その特徴は、侵害
(offense)に対して罪の意識を感じていることを示し、違反行為をしたことを認め
ることである。
・森山(1992)はお詫びとお礼を関係修復のコミュニケーションの典型として次の
ように述べた。

15


「我々の相互作用の中で、我々自身の責任として処理すべき利害関係ができたと感
じる場合、 すなわち、話し手が相手から恩恵を与えられた場合や、話し手が相手に
害を与えてしまった場合、いずれも、利害の不均衡関係が生ずると言える。そこで、
その関係を修復するために話し手がとる言語行動を、関係修復の言語行動と名付け
る。具体的には、前者がお礼、 後者がお詫びである。関係修復の表現は、基本的に
は利害の不均衡に関するものではあるが、出会いや別れなどの交話的側面にも、例
えば「失礼します」のように、一種の利害関係が持ち込まれることもある。」
(森山 1992:288-289)
つまり、森山は謝罪も感謝も利害で生じた不均衡関係を修復するためにとる行為で
あると考えている。
・また、熊谷(1993)においても、
「相手に与える影響を視野に入れ」、
「相手との関
係修復の部分までが本質的な内容に含まれる」行為だと主張している。これは断り
のような、
「相手からの依頼や申し出などに対して否定的に応答する」ことを本質と
する行為においてみられる気遣いとは本質的に違うことが説明されている。
上述した日本語の謝罪についての三つの論は、すべて Goffman が提唱する相互作用
論的な視点に基づくものであり、謝罪を人間関係に生じた不均衡関係を解消するこ
とを目的とする行為であると主張した。


16


・ところが、Kotani の研究結果によれば、日本語の謝罪行為の動機は必ずしも関係
修復ではない。Kotani は日本人大学生にインタビューを用い収集した談話を分析し
た。その結果、自らの責任を感じていなくても謝罪を行うことが多くみられ、その
理由は多くの日本人にとって謝罪は人を良い気分にさせるものだからというのであ
る。つまり、日本人の謝罪とは、必ずしも悪い事態の責任をとるために行う行為で
はなく、相手が何かの違反をこうむっていることに気づいて心配してみせ、その結
果、相手を良い気分にさせる行為である。
以上、日本語における謝罪の動機・目的に関する先行研究から、日本語の謝罪とは
実質的に利害関係が生じたとき、人間関係の不均衡を解消するために行われるもの
のみならず、その利害関係が自分の責任ではないときでも、
「人を良い気分にさせる」
目的で行われる行為でもあるとまとめることができよう。
2.1.2 謝罪が行われる状況について
次に、謝罪が行われる状況について論じられた研究を概観する。
・熊取谷(1992)は謝罪を誘発する不快状況の主なタイプを次のようにまとめてい
る。
(1)状況転換。話し手にとっての「快適状況」を聞き手にとっての「不快状況」と
捉える視点の移動により生じた現象のことという。いわゆる日本語によくみら
れる 感謝の場面に「すみません」などの謝罪表現が用いられることである。

17


(2)過失による被害(物を壊したなど)
(3)許可要請、行為/情報依頼
(4)退室、入室、別れの挨拶として

(5)事実誤認(人違い、言い間違いなど)
(6)エチケット(行儀)違反
(7)期待あるいは要求されていた行動がとれなかった(依頼の拒絶、質問に答えら
れない、義務不履行など
(熊取谷 1992:30-31)
この 7 つのタイプの不快状況をみればわかるように、熊取谷は、謝罪を誘発する
不快状況を「交感的言語使用の典型としての挨拶から「正真正銘」の詫びまで、
「実
質的な被害が存在するものからその存在を認めにくいものまでを含む連続体」であ
ると認識している。
・映画・テレビドラマなどの脚本から収集した用例を用い、日本語と英語の陳謝の
比較を行った中田(1989)は、日英にみられた共通の陳謝の対象には「相手の損害」

「話し手の不適当な行為」

「断りに添えて」

「依頼に添えて」、
「社交辞令」、
「儀礼」、
「注意喚 起」、「皮肉・冗談として述べられる陳謝」があると述べている。しかし、
日本語の場合、 相手の自発的な尽力も自分が相手にかけた迷惑と同列に考えて陳謝
の対象とすることや、謙遜で自分側の能力不足や不行き届きを陳謝することもみら

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